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Moots YBB-SL

2006年10月31日 10:21 written by Teisuke Morimoto

アメリカ人にとって、チタニウム製のマウンテンバイクというのは格別な存在らしい。チタンフレームは永遠だ。100年後、いや、1000年後に人類が核戦争で滅びてもチタンのフレームはその形を保って存在し続けるだろう。もちろん、その時にはクロモリ、アルミのフレームは土に帰っている。


この素材の特性がチタンフレームに普遍性を与え、多くのMTB愛好家にとって、いわゆる最後に行き着く「あがり」のフレーム素材となっている。フルXTRに高級フロントフォーク、高級ホイールセットのセットアップは究極のバイクと考えるライダーも多く、北米には巨大なチタンフレームのマーケットがある。中でも、Moots(ムーツ)は別格の存在だ。


ムーツは1980年にケント・エリクソンによってコロラド州スチームボートで創業された。ほとんどのビルダーと同じように、スティール素材からフレーム製作をスタート。自身で作った非常にユニークな形状のファクトリー兼自宅でムーツの輝かしい歴史は始まった。1984年には最初のNORBAで勝利し、レースでも成功を収める。また、グリップの内側に取り付けるタイプのハンドルアタッチメントを開発、販売しているが、これは現在ではバーエンドと呼ばれているのは周知のことだ。1986年にはYBB(Why Be Beat)と呼ばれるチェーンステイにピボットを持たないソフトテイルシステムを発明し、トム・リッチーはこのシステムを取り入れたフレームをハイエンドのXCバイクとして発表した。


1991年には自転車用のチタニウムチュービングの供給がスタートされたために素材をチタニウムに移行、1995年まで独立性を保ってブランドは存続するが、1995年に会社を売却して新しいオーナーのクリス・ミラーの元で雇用される形態となり、変わらずトーチを握っていたが、2005年に完全に会社を離れて13ヶ月の準備期間の後、スチームボートにエリクセンサイクルを創業しており、ムーツのコンペティターとなった。この事実は一部の愛好家を巻き込んで論争となるが、結局は1995年から2004年末まで会社新しいオーナーの元で経営を続けて来た訳で、エリクソンが抜けることにより、その品質、精神が損なわれることは無いだろう。実際に、ムーツは15人のスタッフによって運営されているのだ。


一人のカリスマがムーツを去ったが、これはアメリカでは良くあること。創業者の精神を尊重しない新たオーナーにより、そのブランドが飼い殺しにされたりせず、創業の土地で変わらずそのブランドを存続させ、高品質なフレームを産出し続けている非常な希有な例と言えるだろう。そう言う意味でもムーツは同じチタン専業メーカーのセブンと並ぶ、別格の存在なのだ。いや、1980年創業という歴史、そのイノベーションの数々を考慮すると、最高のブランドと言っても良いかもしれない。今回は贅沢にも、インターバイクのアウトドアデモにて3台のムーツに試乗することができた。初級〜中級ライダーのインプレッションとして、是非参考にして頂きたい。しかし、筆者が昔から好きなブランドの一つであり、多少の思い入れが入っているのは否定できない。


YBB SL
アウトドアデモのムーツブースにはロードを含む10台以上のバイクが用意されており、貸し出し中であろうバイクを含めると20台近くの試乗車が用意されていた。とりあえず、サイズの合うバイクを用意して貰うが、最初のバイクは18インチのYBB-SLだった。18インチというサイズ表記が素晴らしい。いつの時代からMTBのフレームは大雑把にS/M/L/XLと表記されるようになったのだろうか?このフレームは12/14/16/17/18/19/20/22インチの8サイズが用意されており、もちろんカスタムサイズも可能だ。20年の歴史を持つ伝統のYBBシステムを採用しており、32mmのストロークを持つリアサスペンションはメンテナンスフリーで、トラブルフリー、そしてフルサスペンションのシステムとしては最軽量を誇る。しかもこのモデルはレイノルズ 6/4チタニウムバテッドチューブを使用したスーパーライト(SL)仕様だ。通常のYBBが17インチサイズで1.84kgなのに対し、SLは1.67kgとなり、170gも軽くなる。そして、メーカー希望小売価格にはその170gの代償として31,500円が追加される。


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全てのバイクが試乗可能だ。


スタッフに持参したペダルに交換してもらい、シート高を調整して貰ってコースに出る。このスタッフはいかにもプロという感じで非常に手際が良く、筆者がしつこくシート高を調整するのに嫌な顔一つせずにつき合ってくれる。このバイクはステム、ハンドル、ヘッドスペーサー、シートポストまでがムーツ製の豪華な仕様だ。コンポーネントはシマノXTRで、2.0幅のタイヤが装着されたマビックのホイールもXCライディング寄りのグレードになっており、このバイクの方向性が伺える。


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デモ会場からトレールへのアプローチは砂利の緩やかな登りだ。この登りに差し掛かる時点で自然と笑顔となる。YBBシステムのサスペンションが動いている感じはほぼ無いが、ラフなペダリングでも、スリッピーな路面でもトラクションを生み出してくれる。リジッドのソリッドなペダリング感覚を持ちながらも大きなギャップを吸収してくれるため、多少のガレ場でも足を止めずにぐんぐんと進むことができる。しかし、最低限のロードインフォメーションを与えてくれるために、リジッドの積極的なコントロールさせるライディングをもスポイルしない。経験を積んだプロライダーでなければこのようなフィードバックは得られないと思っていたが、良いバイクは誰にでも公平に恩恵を与える。登りを終え、下りが連続するセクションに入るが、このトレールはバンクが付いていたり、ジャンプがあったりと変化に富んでいる。


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わずか32mmだが、その恩恵は絶大だ。


最初のバンクに入った瞬間、このバイクがXCバイクであったことを忘れていた。10年所有したバイクのように攻めることができる。また、リアにサスペンションが付いていることも同時に忘れていた。小さなテーブルトップも楽しくクリアして、気がつけばデモ会場エリアに戻っていた。この後、この短めのコースを2本走り、調子に乗って30分は要するロングコースにも走りに行ってしまった。最初はイケイケだったものの、後半はタフなアップダウンに疲れて当初のイケイケさを失ってしまった。しかし、この状況で本当にありがたかったのはYBBシステムだ。自ら抜重しなくてもギャップを吸収してくれるため、楽をさせてくれる。わずか32mmのストローク、これがあるのと無いのとでは大違いということは身をもって体験できた。


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ハンドル、ステム、ヘッドスペーサーまでがムーツのチタン製。特にステムとヘッドスペーサー、ヘッドチューブの連続した一体感が美しい。これは確信犯だ。


実はこのYBBシステムはムーツでは単純にサスペンションであるとは表現していない。登りや、タイトなシングルトラックでトラクションをキープすることができ、サスペンションシートポストのようにライダーのみを懸架するのでは無く、最適なトラクションと最適なライダーポジションを保つがことができると説明している。また、その乗り味を「巨大な低圧タイヤを履かせたリジッドフレーム」に例えている。これは、転がり抵抗の少ない高圧タイヤでも快適さを犠牲にしていないという、なるほどと思わせる主張だ。


このフレームはVブレーキ専用となっていたが、カタログスペックではディスクブレーキ専用モデルとなっており、カスタマイズされた仕様だった。また、12インチと14インチではトップがチューブがベンドしており、スタンドオーバーハイトを稼げるようになっている。そして、12/14/16インチでは対応サスペンションストロークが80mmとなり、17インチより上が100mm対応となる。サスペンションもハードコアなライダー向けにケーンクリークのエアサスペンションを採用したYBB AIRもラインアップされている。ムーツはカスタムフレームメーカーだ。カスタムプログラムの利用により、Vブレーキ台座、シングルスピード、ボトル台座の追加などほとんどの要求をオプションにて実現してくれる。上級者は63,000円の追加で可能なカスタムサイジングも検討してもいいだろう。ムーツのMTBフレームの中で最も売れているというこのモデルは、売れて当たり前、と思われる大きな魅力を持っていた。


フレームのみで399,000円[税込]という価格が安いか高いというと、もちろん高いのだが、世界最古のMTBメーカーの一つが製作する、20年の歴史を持つサスペンションシステムを搭載したチタニウム製のハンドメイド・フレームとしては高く無いだろう。これはまさにMTB趣味の「上がり」と言えるフレームだ。難しいことは何も言いたくない。ムーツは20年前からこのフレームを作っているし、もちろん20年後にも作っているだろう。難しいサスペンション技術や新しいテクノロジーとは無関係なフレームだが、買った瞬間から古くなるようなことは無い。長いMTB人生最初の一台としても、人生最後の一台としても、お奨めできるフレームだ。筆者はこのバイクを返却するころには頭の中でパーツ構成を考えていた。


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問い合わせ先
ダイアテックプロダクツ
http://www.diatechproducts.com/moots/YBB.html


次回のインプレションはCINCOです


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